犬塚 篤 (Atsushi INUZUKA, Ph.D.)

東京都出身.幼少期より物作りに興味をもつ.大手電子機器メーカーでの技術者勤務を経てマネジメントに関心を深め,大学院へ進学.在学中に知識綜合研究所を創設し,実証調査研究を通じたコンサルティング活動を始める.トリプル・メジャー(工学,心理学,経営学)を活かした学際的な研究アプローチを特徴とし,2004年,北陸先端科学技術大学院大学より博士号を取得.同大学助手,助教を経て,2008年より,東京大学特任准教授.2010年より,岡山大学大学院准教授.2013年より,名古屋大学大学院准教授.2016年より,同教授.


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★アクセス★
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■研究領域 (research field)

経営組織論(ネットワーク組織論,ナレッジマネジメント,組織行動論),経営戦略論,サービスマネジメント

経営学の諸問題を関係性で読み解く「ネットワーク組織論(戦略論)」という分野を開拓しています.実証データをもとにした計量的解釈を得意とし,知識の共有,研究開発生産性,組織や技術の統合や連携等に関わる理論的問題を,数量化技法やネットワーク技法等の統計的・工学的アプローチによって明らかにしようとしています.近年では,リーダーシップの逆機能や,中小企業の組織変革などの研究に取り組んでいます.

メインキーワード:関係性
その他のキーワード:ネットワーク,コミュニケーション,知識共有,知識獲得,認知構造,集団意思決定,営業知識,状況的知識,サービス経営,店舗運営,知的財産,特許発明者分析,技術経営



■主要研究テーマ (main research topics)

(1)サービスの生産性向上に関する研究(ややマーケティング寄り)

本研究領域は,サービス分野における人材不足の解消を念頭に,サービスの生産性向上に関する基礎原理の探求を行うことを目的とする.我が国ではサービスの生産性向上が国家的イシューとなっているが,生産性問題を得意とするはずの経営学は,サービスの生産性向上を実現するための基礎原理を持ち合わせていない.本研究領域では,サービスにおいて優れた”協働”を実現する基礎理論や効果的な営業手法等の発見を通じ,限られた人数でより高い付加価値をもつサービスの提供を可能とする産業社会の実現をめざす

◇代表論文
・犬塚篤「サービス品質評価の不均一性が利用客の総合評価に及ぼす効果:宿泊予約サイトのレビューデータを用いた実証分析」『マーケティングレビュー』Vol.5, No.*, pp.**-**, 2024.(日本マーケティング学会・ベストオーラルペーパー賞受賞)
・Atsushi Inuzuka and Lijing Chang, "Is participation in services a burden on customers? Optimizing the customer's role of participation," Review of Integrative Business and Economics Research, Vol.12, No.1, pp.111-123, 2023.(SIBR 2022 Osaka Conference Best Paper Award 受賞) ダウンロード
・Atsushi Inuzuka,"Distributed management in service setting: An exploration of the feasibility of coordinating three different orientations in a store," Journal of Economics, Business and Management, Vol.7, No.3, pp.102-107, 2019.(IEDRC Excellent Presentation Award 受賞) ダウンロード
・犬塚篤「顧客志向と販売志向が販売員の客観的業績に与える効果:アパレル企業における実証調査」『マーケティングレビュー』Vol.1, No.1, pp.23-30, 2020.(日本マーケティング学会・ベストオーラルペーパー賞受賞) ダウンロード


(2)ネットワーク分析による組織現象の解明(やや工学・社会学寄り)

本研究領域は,社会学から派生した社会ネットワーク分析の組織論分野への応用を図るものである.「関係性」は組織設計の基礎であるが,社会ネットワーク分析は,個人や組織の行動・特性の総和からでは明らかにならない組織現象の解明に役立つと考えられ,知識経営を考える上で大きな可能性を秘めている.さらに,知識はそれを構成する要素からなる複雑なネットワーク構造と解することができることから,これらを応用した知識共有の評価モデルの開発にも取り組んでいる.

◇代表論文
・Atsushi Inuzuka, "Embedded profitability: A network view on the Japanese automobile industry," Review of Integrative Business and Economics Research, Vol.4, No.4, pp.187-194, 2015.ダウンロード
・犬塚篤・渡部俊也「パネルデータ分析を用いた社会的埋め込み理論の検証」『組織科学』 Vol.47, No.3, pp.64-78, 2014. ダウンロード
・犬塚篤「3層知識ネットワークデータを用いた知識変換の影響力の定量化:ゲートキーパー・トランスフォーマー機能の再検討」『組織科学』Vol.43, No.4,pp.46-58, 2010. ダウンロード


(3)異組織・技術間の統合や連携に関する研究(やや技術経営・知的財産管理寄り)

本研究領域では,異組織同士がいかに知識や技術の統合を果たしているかに関する実証的考察を行っている.組織内における異なった制御メカニズムに関する実証的研究,および特許情報をもとにイノベーション・マネジメントを考える特許情報分析の2つの柱がある.後者は,国内では数少ない知的財産マネジメント分野における定量的研究であり,技術間の摩擦や活用に関する実証的考察を行っている.

◇代表論文
・犬塚篤「国内完成車メーカーと1次サプライヤー間の取引依存関係:分化する部品調達方針」『日本経営学会誌』Vol.40, pp.55-65, 2018.ダウンロード
・Atsushi Inuzuka, "How should suppliers respond to economic crises?: Lessons from the Japanese auto parts industry,” Review of Integrative Business and Economics Research, Vol.5, No.4, pp.280-292, 2016.(RIBER Best Paper Prize 受賞)ダウンロード
・Atsushi Inuzuka, "Do corporate mergers bring about new combinations of knowledge?: Empirical evidence from patent data," International Journal of Knowledge Management Studies, Vol.3, Nos.1/2, pp.40-59, 2009. ダウンロード
・犬塚篤「情報の多義性削減プロセスに関する実証的解釈」『組織科学』 Vol.38, No.4, pp.66-76, 2005. ダウンロード


(4)リーダーシップ理論の批判的検証と再構築(やや心理学寄り)

社会科学上の構成概念として,リーダーシップは絶望的に曖昧だといえる.またそれに拍車をかけるのが,社会科学的方法論に由来する実証研究上の技術的課題である.逆に考えれば,実証研究者としての腕が真に試される分野でもある.本研究領域では大胆な研究・分析技法を採り入れることで,リーダーシップという現象が信じるに値するほど効果的であるかの検証を試みる.また,ネットワーク分析技法を援用した非公式リーダー(エマージェント・リーダー)や,「使えない上司」に関する研究も行っている.

◇代表論文
・犬塚篤「店舗内における非公式リーダーの発生要因:店員の能力限界に着目して」『組織科学』Vol.53, No.3, pp.75-85, 2020.(2021年度経営行動科学学会・優秀研究賞受賞) ダウンロード
・犬塚篤「SL理論の妥当性の再検証:コサイン曲線を用いた包括的検証法の提案」『経営行動科学』Vol.31, No.1/2, pp.17-32, 2019. ダウンロード
・犬塚篤「リーダーシップという幻想:リーダーシップ研究は「科学」たり得るか」松田陽一・藤井大児・犬塚篤編著『リーディングス 組織経営』岡山大学出版会, pp.1-26, 2012(分担執筆).


(5)中小企業の組織変革に関する実態調査(やや戦略論寄り)

日本の97%を占める中小企業が,付加価値を高め持続的な競争優位性を身に付けていくためには何が必要なのか(何が不足しているのか)。変革ではなく現状維持を志向してしまうことの背景は何か等の課題について,アンケートデータに基づく実態調査を定期的に実施している。速報性を最優先とし,講演や各種メディアでの発言,コンサルティング活動など中心に研究成果を還元している。

◇代表報告等
・犬塚篤「『変化の実感のなさ』が組織変革に及ぼす効果:自動車部品メーカーを対象に」組織学会中部支部会・経営行動科学学会中部部会合同研究会(2023.3.18)
・基調講演登壇:「コロナ禍での学びを,今後の経営にどう活かしていくか:中小企業経営者への調査を振り返って」経営の打ち手カンファレンス(静岡新聞社・静岡放送主催,2023.3.17)
・TV番組出演「中小企業の賃上げは? 県内企業の模索」(NHK秋田『ニュースこまち』,2023.3.1)
・TV番組出演「生解説:感染拡大止まらず 経済活動続けるには?」(テレビ愛知『5時スタ』,2022.8.4)


(6)組織における知識活用・意思決定メカニズムに関する研究(やや心理学寄り)

優れた知識をもつ人が集まっても,優れたパフォーマンスを達成できるとは限らないのは何故なのか.イノベーション創出の原理やそれに伴う意思決定メカニズムは,知識マネジメントの中核であるにも関わらず,そのアプローチの難しさもあって,これまで組織論分野ではほとんど扱われてこなかった.本研究領域では,集団ダイナミクス,認知心理学等の知見を活用しながら,組織内における人がもつ知識の組織的活用に関するメカニズムを解明し,日々イノベーションが求められる研究開発や,会議体などにおける応用展開を目指す.

◇代表論文
・犬塚篤「サービス化時代のチームワーク」『産政研フォーラム』Vol.121, pp.13-20, 2019. ダウンロード
・犬塚篤「特許発明者に着目したNIH症候群の再解釈:研究開発における”関係維持”がもたらす効果」『日本経営学会誌』Vol.24, pp.54-65, 2009. ダウンロード
・犬塚篤「企業合併時における発明者間の技術距離と知の創出」『経営情報学会誌』Vol.18, No.4, pp.415-426, 2010. ダウンロード


(7)知識の共有・移転,知識の獲得メカニズムに関する研究(やや心理学寄り)

団塊の世代が大量に退職を迎えるという2007年問題が現実となる現代において,知識の共有・移転は看過できない問題となっている.本研究領域では,知識の共有を考えるに必要な概念の定量化や効果測定を行ったほか,知識とはそれを認知する個人の主観の投影と考えられることから,個人がもつ認知の差異が知識共有や移転に与える影響に関する基礎的研究を行っている.

◇代表論文
・犬塚篤「職場内訓練の成立条件:ソシオメトリック・データを用いた実証」『産業・組織心理学研究』Vol.22, No.2, pp.115-126, 2009. ダウンロード
・犬塚篤・鱸裕子「フランチャイズ本部から店舗へのメッセージ伝達:メッセージ理解と店舗内人間関係」『経営行動科学』Vol.20, No.2, pp.1-11, 2007.(2008年度経営行動科学学会・奨励研究賞受賞) ダウンロード
・犬塚篤「顧客ニーズの共有コストに関する一考察:情報粘着性の観点から」『日本経営学会誌』Vol.14, pp.43-54, 2005. ダウンロード


(8)その他,関心のある研究テーマ

◇未着手につき,現在コメントできる内容はありません.
・企業不正の原因同定と再発防止の有効性
・リスキリングに関する研究


★他にもたくさん論文を書いています研究業績リスト[PDF]).




■経歴 (brief career)

 1991-1996 ソニー株式会社 勤務
 2003-2004 知識綜合研究所 創業
 2004-2007 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST) 知識科学研究科 組織ダイナミックス論講座助手
 2007-2008  同助教(学校教育法改正により助手から助教へ改名)
 2008-2010 東京大学 総括プロジェクト機構 知的資産経営総括寄付講座 特任准教授
 2010-2013 岡山大学大学院 社会文化科学研究科 組織経営専攻経営学講座(ビジネススクール) 准教授
 2013-2016 名古屋大学大学院 経済学研究科 産業経営システム専攻企業システム  准教授
 2016-    同教授

兼任(非常勤)等
 2007-2008 日本生産性本部 経営アカデミー MOTコース研究指導講師
 2008-2009 東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 非常勤講師
 2009-2010 北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科MOTコース 非常勤講師
 2010-2012 東京大学 先端科学技術研究センター 客員研究員
 2012-2015 東京大学 知的資産経営研究講座(新NEDO社会連携講座)登録委員
 2015-2022 東京大学 政策ビジョン研究センター 戦略タスクフォースリーダー養成プログラム登録委員
 2018-2018 東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 非常勤講師

主な役員・学外委員等
 2002-2012 電子情報通信学会 ソフトウェアインタプライズモデリング第1種専門委員会 専門委員
 2010-2014 経営行動科学学会 経営組織研究部会 部会長
 2016-2018 経営行動科学学会 研究担当理事
 2016-2018 経営行動科学学会 機関誌(学術論文誌)編集委員長
 2018-    経営行動科学学会 常任編集委員
 2019-2023 組織学会 中部支部担当評議員(中部支部会長)
 2022-2023 経営行動科学学会 年次大会担当理事(第25回年次大会実行委員長)


■学位・資格 (qualifications)

 1991 学士(工学)
 1995 学士(教養学)
 1997 産業カウンセラー(厚生労働省認定)
 1998 第1種情報処理技術者(経済産業省認定)
 1999 学士(経営情報学)
 2001 修士(知識科学)
 2004 博士(知識科学)
 2016 TOEIC 950点(国際ビジネスコミュニケーション協会)


■受賞・表彰 (awards)

 2002 電子情報通信学会SWIM研究専門委員会・優秀論文賞
 2004 電子情報通信学会SWIM研究専門委員会・優秀論文賞
 2008 経営行動科学学会奨励研究賞
 2016 永井科学技術財団賞(奨励賞)
 2016 Best Paper Award(2016 International Conference on Business and Information)
 2016 Best Paper Award (SIBR 2016 Osaka Conference on Interdisciplinary Business & Economics Research)
 2016 RIBER Best Paper Prize(Review of Integrative Business and Economics Research, Volume 5, Issue 4, 2016)
 2019 Excellent Presentation Award(2019 4th International Conference on Marketing, Business and Trade)
 2019 ベストオーラルペーパー賞(日本マーケティング学会・マーケティングカンファレンス2019)
 2020 Best Paper Award (SIBR 2020 Sydney Conference on Interdisciplinary Business & Economics Research)
 2021 経営行動科学学会優秀研究賞(論文部門)
 2022 Best Paper Award (SIBR 2022 Osaka Conference on Interdisciplinary Business & Economics Research)
 2023 ベストオーラルペーパー賞(日本マーケティング学会・マーケティングカンファレンス2023)


■取扱説明書 (user instruction)

  研究と晩酌を生きがいとする独身学者(未婚).
  お役所仕事と「○○長」といった役職就任をこよなく嫌う.
  休日にPCを持って,街の喫茶店を”はしご”する習性あり.
  複数の情報筋によれば,42.195キロを走る姿も目撃されている.
  基本穏やかだが,中途半端な仕事にはたまに噛みつく.




学問遍歴の途 (history of wanderings)
技術者として,人間として
人も羨む?一流企業を5年勤め,退職した.技術者としての自分と,一人の人間としての生き方の一致が取れなくなったからだ.会社員なら誰もが一度は考えることだろうが,私の場合は人一倍そうした思いが強かったのかもしれない.

臨床心理学の限界を知る
どうせなら一番苦しんでいる人のために働きたいと,「人間中心」の思想をもつ臨床心理学に自分の生き方の昇華を求めた.しかしそれは,現実の社会から遊離された空間を前提として成り立っている学問でしかなかった.私の目的は次第に,「現実の社会における人間中心」の思想の在り処を探ることへと収斂していく.

経営学からJAIST入学へ
社会における現実を学ぶため経営学を志し(3度目の大学入学),産業の諸条件とダイナミクスを理解するうち,野中郁次郎先生の「知識創造」という観点が,人間中心の思想と企業の収益性との二律背反を克服するひとつの切り口になると考え,JAIST入学を決意する.

ナレッジ・マネジメント最前線
希望通り,野中郁次郎先生に師事.ナレッジ・マネジメントの最前線で研究するうち,具体的方法論の欠如を痛感.ちょうどその頃,経営の記述言語としてのシステム思考に出会い,研究テーマを大幅に変更.シミュレーション技法を用いた研究で修士論文を書きあげる.優秀修了者として表彰されました.

横断的な研究活動を展開
システム論的分析手法に組織研究の活路を求め博士後期課程へ進学.究極の目標は,経営における意味の流れのシステム論的記述.社会を意味ある形で記述するためには,文系・理系両方のセンスが必要.文理双方のバックグラウンドを活かし,横断的な研究活動を始めていきました.

人を支える知識を求めて
ベンチャービジネスラボラトリ(VBL)の入居審査を経て「知識綜合研究所」を創設,所長に就任.ナレッジマネジメントの観点から,実務はもとより,学術研究としても有用な調査分析手法の開発,コンサルティング活動へと乗り出していきました(教員着任に伴い,活動を中止しました).

新たな理論構築を目指して
大学教員に着任.学術資産の応用展開を志し,企業における具体的な問題解決手法の構築に数多く関わる.特に,個人や組織の認知構造に関する実証調査手法に興味をもつ.また近年は,知的財産管理,技術経営などの研究にも関わっている.




−現場・技術・理論のわかる研究者として,学問と実務のリエゾン役をめざしています−