エッセイ:三十路前の放浪記(3)

    戦う


    ひげを生やした。
    この冷たい状況に、少しでも立ち向かえるために。

    そして私は、勉強を再スタートさせた。大学院受験まで、日数はなかった。
    相変わらず不安はつきないものの、この不安のなかで努力していくしかない。
    少しづつ…少しづつ私は、勉強のペースを速めていった。

    スタートさえしてしまえば、こっちのものだった。
    元々、長時間机にいられる方だし、集中力に関しては多少自信がある。
    専門知識を復習、辞書を暗記するまで読み、基礎知識を蓄える日が続いた。
    毎日、限界まで勉強して、そして倒れるように寝た。

    ◆

    秋の受験期が訪れた。
    勉強量はまだ足らなかったが、とにかく感触だけでも味わってみようと思い、受験することにした。

    9月、最初の受験。英語がえらく難しかった。手応えなく不合格。
    10月、最初の大学院に比べたら、かなり手応えがあった。しかし、やはり不合格。

    心理系大学院は、当時、人気の絶頂にあった。
    倍率も、優に20倍近くあっただろう。そう簡単に入れるはずがないことは承知していたものの、やはり連続で不合格になると不安になった。

    −現役の、しかも学部あがりの学生には、所詮勝てないのか。

    私も仕事をしながら大学で心理を勉強してきた。勉強量は互角だと思うが、各大学には明らかな出題の癖があるため、どう考えてもフェアではない。秋入試の場合、会社を辞めてきた自分の意欲を感じ取ってくれるかどうかにかかっていた。いや、むしろ…

    −どこでもいいから決まりたい。

    そう祈っていたのかもしれない。


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