エッセイ:リーダーの「器」とは何か(4)
論理的思考を阻む罠
リーダーは,その決断が不確実に満ちていればいるほど、リーダーはその決断の背景を、論理的に説明していかねばならない。
論理的に考える上で、最も邪魔になるのは、情緒であろう。「問題意識をもて」「ヤル気を出せ」とばかり言うリーダーがたまにいるが、そもそも、「問題意識をもて」と言われて問題意識が出てくるものではないし、リーダーの仕事とは本来、部下のヤル気が正しく活かされる道を整備することにある。「ヤル気を出せ」と部下にハッパをかけるリーダーは、自らが無能であることを周囲に表明しているようなものである。
こうした情緒的なリーダーほど、部下に意識の向上に求めるものだが、部下の意識が向上したところで問題はまず解決しないことを指摘しておきたい。部下の意識低下とはマネジメントの不備に伴う相関現象であり、問題の結果ではあっても原因ではないことがしばしばだからである。人間には、原因と結果を何らかの因果で結ぼうという強力なメカニズムが備わっている。このように時間的に前後した2つの現象を因果関係として認知してしまう現象は、帰属の誤り(attribution error)と呼ばれる。
さらに、結果が起きた以上は原因があるはずだと考えて、原因を探し当てようとすることによる認知の歪みは、後知恵バイアス(hindsight bias)という。読者らは、ベストセラーとなったピーターズ&ウォータマン(1983)の「エクセレント・カンパニー」という本を覚えているだろうか。これは業界水準をはるかに超える卓越した業績をもつ企業の成功要因を探ったものだったが、出版後10年も経たないうちに、これらの“エクセレント”な企業が次々と深刻な業績不振を経験したのは有名な話である。同著では、最上のサービスと製品を提供していた等の成功要因が“発見”されたものの、その論理構成といえば「優良企業は優れていた」と言わんばかりの稚拙なものであった。しかし人々は当時、それによって成功要因を“理解”し、また賛辞すらしたのである。
このような論理的思考を阻む罠は、人間ができるだけ手抜きをして、物事を理解しようとすることに由来している。たとえば、下記はどうだろうか。
ヤマト運輸が成功した理由の一つは、テレビから流れる「クロネコヤマトの宅急便」のコマーシャルにあると思ったらしい。そこで(新たに参入した)35社がそれぞれに動物のマークを作り、宣伝を始めた。ネコよりも強いイヌ、それも赤イヌ、小クマ、ライオン、ゾウ、キリン、いろいろな動物が参入してきて、さしずめ“動物合戦”とでもいうべき状態になったのである。(小倉昌男(1999)『小倉昌男 経営学』日経BP社)
成功した他社のやり方を真似ることは、必ずしも間違っているわけではない。しかし、論理的に考えることできないリーダーは「成功者と同じことをしているか否か」を知った時点で思考が止まってしまう。成功事例から本当に学ばなければならないのは、そうした成功に至るための論理であり、正しく考えれば動物のマークを作ることにはならないはずである。ここでも重要なことは、成功事例を“ダウンロード”することではなく、自らの頭で考えることである。
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