エッセイ:リーダーシップ論(2)
リーダーシップ論の誤解
リーダーシップ論には,数多くの誤解がある.まず,リーダーシップとは,リーダーがフォロワーに対し何らかの影響力を行使して,フォロワーから組織目標に向けた適切な努力を引き出すことをいう.フォロワーへの影響行使をいうのだから,リーダーシップを発揮すること自体は,無能なリーダーであってもできる.つまり,「リーダーシップを発揮すること」は,そのリーダーが優れていることを必ずしも意味していない.
フォロワーへの影響行使を指すのであれば,リーダーの影響力が及ばない行為,たとえば組織設計,社内システムの問題などは,リーダーシップ論の範疇にない.情報共有がうまくいかなかった,社内の機動力が発揮されなかったなどの問題の多くは,リーダーシップというよりは,組織設計上の問題である.
リーダーシップはまた,戦略策定の問題とも異なる.経営者の将来を見通す力は,リーダーの頭の出来に由来するもので,リーダーシップ(フォロワーへの影響行使プロセス)の結果ではない.リーダーシップの効果性は,組織目標の達成度で測られるべきであり,その組織目標を何にするかについては,リーダーシップ論が本来答えるべき問題ではない.
要するに,リーダーシップの問題と,マネジメントの問題とは切り分けて論じるべきなのである.経営組織論では,組織目標を達成するために最適な組織構造の在り方や,組織メンバーから適切な努力を引き出すためのインセンティブ体系が論じられてきた.これらの理論はいわば,「リーダーがいなくても回る組織」を作ろうとして開発されてきたものだといえる.しかし,どれほど精緻に組織構造やインセンティブ体系を設計したところで,すべてのフォロワーがもつ動機(個人目標)が,組織目標と完全に一致するようなことはない.組織論の基礎を作ったバーナードという学者は,「このふたつが同一であるようなことは特殊条件にある宗教的組織などを除き,現代の諸条件のもとではおそらくありそうもない」と述べている.
そうなると,組織目標の実現にあたっては,組織設計の不完全性を誰かが補完していかねばならず,そのために組織は,リーダーシップという機能を発達させてきた.つまり,リーダーシップの必要性は,組織設計とインセンティブ体系の限界に由来するものであり,その意味で,リーダーシップとは,組織目標とフォロワーがもつ多様な動機(個人目標)とを,リーダーがすり合わせていくプロセスと解することができる.
組織内の各部門が抱える目標もまた組織目標である以上,リーダーシップは下位部門でおいても必要とされる.リーダーシップとは,経営の上位層のみが考えるべき問題では決してない.それが発揮される現場は,むしろそれ以外の方がはるかに多いのである.前回へ戻る/続きを読む