エッセイ:サービス化する経済でメーカーの存在意義を問い正す(4)
製造業とサービス業の違い
サービスとモノづくりを対比的に捉える者は少なくない.実際,研究者の間でも,サービスは有形財(モノ)とは異なる4つの基本特性−無形性(intangibility),異質性(heterogeneity),同時性(inseparability),消滅性(perishability)−を有するという考え(注4)が広く共有されている.しかし,先のS-Dロジックの話をふまえるならば,サービスとモノを対比させることはサービス化の本質から目を背けることになる.ここでは,私がメーカーが特に参考にすべきだと考える,統一サービス理論(Unified Service Theory:UST)を紹介したい(注5).
USTによれば,サービスに特有で普遍的な特徴は,顧客が生産プロセスへの入力の一部を供給し制御することにある(図-1).サービスであるための必要十分条件は,顧客による入力があるかないかの一点に集約される.また,同じ内容を提供していても,顧客による入力の有無によってサービスであったりなかったりする.たとえば,私がこの原稿を執筆することは,一般的な読者層のニーズを考慮することを除けば,個々の読者からの入力を必要としないためサービスとはみなされないが,この原稿を読んだ読者からの質問に答えることはサービスの生産に含まれる.また,そうした読者とのやりとりをまとめて本にして出版したならば,それは購買者からの入力を要しないため再びサービスではなくなる.
USTが捉えるサービス化の本質は,顧客からの入力を起点に生産を開始するか否かの一点にある.価値を見出すのが顧客であるのなら,顧客からの入力を起点に生産を開始することは理に適っている.また,その供給物が有形物か無形物かは,サービスの定義とは無関係である.だから,メーカーであってもサービスの生産は可能である.たとえば,顧客ごとのニーズに合わせた個別生産を行うマス・カスタマイゼーションは,立派なサービスの生産にあたる.ただし,顧客からの入力ルートを生産プロセスに組み入れる必要があるために,通常の生産方式に比べると複雑化する.
注4)Zeithaml, V. A., Parasuraman, A., & Berry, L. L. (1985). Problems and strategies in services marketing. Journal of Marketing, 49(2), 33-46.
注5)Sampson, S. E. (2010). The Unified Service Theory: A Paradigm for Service Science. In Maglio, P.P., Kieliszewski, C.A., & Spohrer, J.C. (eds). Handbook of Service Science, Springer, pp.107-131.
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