エッセイ:サービス化する経済でメーカーの存在意義を問い正す(5)
機能分離の功罪
こういう話をすると大方の技術者は,「うちの会社では営業・販売部門があるのだから,顧客に関することは彼らの仕事だ.われわれが口を出すことではない」と反応する.しかし,サービス化には全社的取り組みを必要とするため,営業・販売部門と開発部門間の明確な機能分離は,致命的な悲劇をもたらすことがある.あなたの会社では,次のような押し問答(注6)があったりしないだろうか.
営業: 弊社のガレージのドアの開閉装置として,太陽電池仕様のものを発売したい.
開発: どの程度の信頼性が必要か.家の中からコントロールできる方が良いのか.新しい電子技術を取り入れる必要があるか.集電器は既に取り付けてあるものとは別に用意すべきか.
営業: 君たちは技術者だろう.そういうことは,君たちが考えて助言してほしい.
開発: 要するに,何が欲しいのかわかっていないということか.
営業: おいおい,何をどう作るかまで全部我々が言わなくてはならないのか.技術者はいったい何で食べているのか.集電器をどこに設置すべきかなど,我々が知っているはずなどないだろう.
開発::電子システムを作れば,君たちはコストが高くて故障しやすいと言う.電気的にやれば1930年代のようだと言う.集電器をどこに配置しても,その場所はダメだと言うに決まっている.いつも提案した後で,ごちゃごちゃ言ってくるじゃないか.
営業: わかった.それなら,集電器はガレージの屋根に設置してほしい.
開発: それは技術的にあり得ない.
この会話からは,顧客の顔がまるで見えてこない.見えてくるのは,営業部門と開発部門の苛立った顔だけであり,これでは顧客の入力を起点にしたビジネスなどできない.私は,例え話を言っているのではない.「顧客の困った顔」を起点にビジネスを展開することが,サービス化だと言っているのである.同じことがMaaS,CASEにもいえる.真に考えなくてはいけない課題は,自動車が単なる移動の道具と化す社会で,顧客の要求はどう変化するのかということのはずなのに,技術者たちはこれを,EVの走行距離をガソリン車に近づけるための電池性能の向上であったり,自動運転の精度を高めるためのデータ解析といった,自分たちが慣れ親しんだ課題に置き換えてしまう.そして,「顧客の困った顔」はまたしても見えなくなってしまうのである.
注6)Crawford, C. M.(1984). Protocol: New tool for product innovation. Journal of Product Innovation Management, 1(2), 85-91.前回へ戻る/続きを読む